2023年入社の加藤大典と申します。私、小説が好きですのでプロローグだけちょっと小説っぽくしてみたいと思います。
想像してみてください。卒論の提出期限日は今日です
あなたの卒業研究は困難を極めました。その研究は非常に有意義なものでありましたが、難易度が高く研究を進めるたびに多くの問題に直面しました。あなたは、指導教員や同級生の力も借りながらその問題を解決していき、なんとか執筆にとりかかります。そして、自分自身の研究成果を余すことなく論文にまとめ上げ期限内の完成に目途が立ちました。そんな折に気づいてしまうのです。先行研究や引用文献をまとめた参考文献リストを作成していなかったと。
Wordを使って執筆をしていたあなたは、参考文献リストを手作業で作成しなければなりませんでした。困難な研究に取り組んでいたあなたは研究の過程で多くの文献を参考にしました。さらに必要な参考文献リストには記述方法、すなわち書式が指定されていました。その書式に従って参考文献リストを作成するには、記述方法のマニュアルを見ながら作成しなければなりません。残されたわずかな時間と体力で参考文献リストを作成することはあなたの心を折るのに十分な作業でした。
以上プロローグでした。このプロローグはフィクションとなります。でも世界のどこかには同じような経験をした人がいるのではと思っています。
私は学生時代の研究で、プロローグ中で問題となった参考文献リストを簡単に作成できるシステムを開発しました。研究に至った経緯は授業の課題で参考文献リストの記載が求められたことから始まります。その時、参考文献リストの作成がかなり大変だということに気づきました。そこで、参考文献リストが簡単に作成できるシステム、すなわち文献管理システムの存在を知り導入しましたが、作成の手間は削減できなかったのです。つまり、既存の文献管理システムには問題があったのです。同じく参考文献リストに悩みを抱えている学生は多いのではないかと考えた私は、既存の文献管理システムではうまくいかなかった問題を解決した文献管理システムの開発を始めました。
本記事では研究の背景と開発したツールの概要の説明、そして研究の所感の執筆を行います。
書式に従った参考文献リストの作成は大変なのです
参考文献リストは通常、記述方法を示した書式が定められています。この書式には様々な種類が存在していて、有名な書式の一例としてIEEE Styleがあげられます。これは、米国電気電子学会で使用されている書式であり、米国電気電子学会に論文を投稿するときは、このIEEE Styleに従った参考文献リストの記述が求められます。
日本においては、SIST02と呼ばれる書式が有名であり、本記事ではこの書式を例に解説を進めていきます。SIST02書式に従った参考文献リストの記述方法は次の通りです。
著者名.論文名.誌名.出版年,巻数,号数,はじめのページ−おわりのページ,ISSN.(言語の表示),(媒体表示),入手先,(入手日付).
例を見ると、著者やタイトルなどを並べる順番とそれらのデータをどの記号で区切るのかが指定されていることがわかります。これらを手作業で作成しようと思うとかなり大変に思えますが、書式が指定していることはこれだけではありません。ほかに指定していることして次のことがあげられます。
- 著者名は苗字だけかフルネームなのか
- 著者名の姓名の間に空白やカンマは必要なのか
- 著者名を英語で記述する場合、ファーストネーム、ミドルネーム、ラストネームはどの順番で記述し、どれが必要で、イニシャルのみにするのか
- 著者は何名以上になったら省略することができるのか
- 参考文献リストに含まれる文献は著者名順に並べるのか
- 複数著者を区切る記号は何であるのか
- 日付の記述方法は何か
これらは一例であり、まだまだ書式によって指定されている記述方法があります。
ここまでのことをまとめると書式通りの参考文献リストの作成には、次の3つの作業が必要になります。
- 複数の著者やタイトルなどのデータを指定の通りに並べる
- データを指定の区切り記号で区切る
- 著者の姓名間の記号の有無など詳細な記述方法を守る
文献管理システムを導入して参考文献リストの出力を試みるが・・・
参考文献リストの作成は大変なためシステム化するべきです。そこで文献管理システムを導入しましょう。文献管理システムを用いれば、自身が使用した文献を登録し、保存することができます。さらに、登録した文献から参考文献リストを自動で出力することができます。この機能を使えば、データを並べる手間や区切り記号を挿入する手間を省けます。さらに、詳細な記述方法についても、文献管理システムによって自動で処理することができます。
文献管理システムを使えば、参考文献リストの問題は解決できる・・・と思いますが駄目なのです。なぜなら書式通りの参考文献リストが出力できないことがあるからです。既存の文献管理システムはIEEE styleやSIST02のように著名な書式であれば書式通りの参考文献リストが出力できます。一方で著名ではない書式、例えば、それぞれの学校で独自に設定されている書式についてはサポートされていません。このままでは、卒業論文のために文献管理システムを利用しても必要な参考文献リストが得られません。
文献管理システムがサポートしていない書式の参考文献リストを出力したければ、設定が必要です。しかし、この設定はマクロやXMLの編集を伴い非常に難しいです。そのため、書式の設定が正しくできず間違った出力がされてしまうか、設定に時間がかかりすぎて手作業で作成したほうが早くなる恐れもあります。つまり既存の文献管理システムでは独自に制定された書式の参考文献リストを作成はほぼ不可能であると考えられます。
簡単に使える文献管理システムを作りました
私の研究は書式の設定を簡単にできる文献管理システムの開発です。私が開発したシステムを以降提案システムと呼びます。既存の文献管理システムは、書式設定にマクロやXMLの編集を伴い難しいです。一方提案システムは選択形式で書式を設定できるため、簡単に設定ができます。この選択形式を実現するために、複数の書式を調べ世の中に存在するすべての書式に対応できるように選択する設定項目を調整しました。
また、タイトルや著者を並べる順番とそれらを区切る記号の指定方法はシステムに次の内容を入力することです。
{#著者名.}{#論文名.}{#誌名.}{#出版年,}{#巻数,}{#号数,}{#はじめのページ−おわりのページ,}{#ISSN.}{#(言語の表示),}{#(媒体表示),}{#入手先,}{#(入手日付).} |
この内容は提案システム上に表示されている[著者名]と書かれたボタンがあるためそれを押せば、{#著者名}と入力することができるため直観的に入力することができます。その後、区切り記号を入力すれば書式設定は完了です。
このように、提案システムは既存の文献管理システムと比較すると書式の設定のハードルが低くなっています。そのため、卒業論文に必要な参考文献リストが著名な書式でなかった場合においても、書式通りの参考文献リストを出力することができます。
なお、設定した内容はJSONファイルで保存されるため、そのファイルから設定を共有することが可能です。
提案システムの書式設定以外の機能ではBibTeXファイルと呼ばれる文献の著者やタイトルなどのデータを格納したファイルの入出力機能があります。このBibTeXファイルは論文などを提供しているウェブサイト、例えばグーグルスカラーやJ-stageから入手することができます。このファイルを読み込ませることでタイトルや著者などのデータを抽出し参考文献リスト作成の手間をさらに削減することができます。
このシステムを作っての所感とそれを生かした自身の将来像
提案システムは私が所属したゼミ生に使っていただきました。私の卒業後もゼミ内で継続して使っていただけるそうです。使用者から「とても楽になった」とか「これはいい」や「鳥肌が立った」とか言っていただいて、非常に照れくさく、うれしく思いました。このことは、私が今後エンジニアとして活動していく上での原点となったと思います。
この経験から、一つ決めたことがあります。それは私がちょっとでも大変だと思ったことを楽にこなせるシステムを作ってみんなに使ってもらおうということです。今回の提案システムで削減できる時間はわずかなものだったかもしれません。しかし、みんなに使ってもらえたら、その分だけ削減できる時間が増えます。皮算用ですが、私のシステムを使用することによって5分の時短ができると仮定しましょう。これを100人使ってくれれば500分の時間を生成したシステムだと言えなくもないです。
私が成し遂げたことは身近な人にしか影響しないことでしたが、FIXER入社後はその範囲を拡大し、すごい多くの人の作業がすごく短縮できるシステムを開発できるエンジニアを目指します。
参考文献
科学技術情報流通基準.“SIST02”.参照文献の書き方.https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12003258/jipsti.jst.go.jp/sist/ha…,(参照2023-04-06).